2011/08/12

El corazón.

松田 直樹 (Naoki MATSUDA / Mar 14, 1977 - Aug 4, 2011) - Rest in peace.

既に報じられている通り、8 月 2 日の練習中に急性心筋梗塞で倒れたサッカー選手の松田直樹が、2 日後に帰らぬ人となった。

現役のプロ・スポーツ / サッカー選手で、ワールド・カップ出場経験のある元日本代表選手(しかも出場したのが多くの日本人が鮮明に覚えているであろう 2002 年の日韓大会)で、アスリート / プロ・サッカー選手としてはベテランではあっても一般的にはまだまだ若い 34 歳という年齢だったこともあり、マス・メディアでもかなり大きく報じられてたらしい(マス・メディアはほとんど見ていないんで詳しくは知らないけど)。

松田直樹に関しては、2009 年 5 月に書いた『闘争人 ー 松田直樹物語』のレヴューで「他でもない、我らがマリノスのバンディエラ、我らがマリノスの魂であり、ミスター・マリノスこと松田直樹」とか「日本サッカー史上最高のディフェンダー」とか「もっとも愛すべきフットボーラー」って言ってるくらいなんで、まぁ、個人的には相当思い入れが強い選手。あまり特定の選手への思い入れを表に出すほうではないんで、そうは見えないかもしれないけど。まぁ、なんていうか、松田直樹に強い思い入れがあるってよりも、「マリノスに強い思い入れがあれば松田直樹にも強い思い入れを持たざるを得ない」って言ったほうが正確かな。少なくとも、自分にとっては。そういうタイプの選手だったし、単なる '選手' 以上の存在だったって言ってもいいかもしれない。

ただ、昨今の報道等を見てるとけっこう違和感を感じることも多くて、それでなくてもイヤでもいろいろと 考えざるを得なかったりするんで、なんか、まだイマイチ整理がつかないけど、その「個人的な思い入れ」について書いておこうかな、と。

倒れたって報道を見たときはもちろんだけど、訃報を聞いたときはある程度の覚悟はしてたつもりだったのに、不覚にも取り乱したっつうか、文字通り、茫然としちゃった。自分ではそういうタイプではないと思ってたのに(わりと冷淡なもんで)。何もやる気が起きなかったし、何をしてても心ここにあらずって感じで。目とか耳から入ってくる情報と自分の中の認識がズレてる感じっていうか。ちょっと、我ながらビックリするくらいだった。

8 月 2 日に松田直樹が倒れたってニュースを見たときに思い出したのは「フットボーラーは 2 度死ぬ」って言葉。たしか元ブラジル代表(元日本代表監督でもある)のファルカンの言葉だったかな? コレは現役を退いたときと本当に死亡したときの 2 回って意味なんだけど、サポーターにとってはちょっと違ってて、8 月 2 日の時点で既に 2 度目だった感じ。そして、今は 3 度目。「松田直樹を 3 度失った」って心境。しかも、1 年にも満たない間に。

1 度目はもちろん、昨シーズンの終了後に、松田直樹が 16 年間プレーしてきたマリノスを去ったとき。これまで当たり前のようにいた選手が、レギュラー争いの中でポジションを失ったわけでも怪我したわけでも自分の意思で引退したり移籍したりしたわけでもないのに、いなくなってるって事実を突きつけられたとき。そういう意味では、厳密には今シーズンの開幕時ってことになるのかな。2 度目は 8 月 2 日に倒れたとき。急性心筋梗塞で、しかも心肺停止状態になった(つまり、脳に酸素を送れない)時間があったって聞いた時点で、プロ・サッカー選手としての復帰は厳しいだろうな、と思ってたんで。命は助かっても後遺症は残るだろうし、普通の社会生活ならともかく、プロのアスリートとしての復帰は相当厳しいだろうな、と。まぁ、その時点では、そんなことよりも、とにかく命だけでも助かって欲しいと思ってたんだけど。そして、もちろん、3 度目は 8 月 4 日。一般的に一番危険だと言われる 48 時間を超えてたんで、実は当初よりちょっと希望があるかも? なんて思ってた矢先だった(しかも、実は身内で 3 日くらい意識不明の後に、ケロッと意識を取り戻したヤツもいたりしたんで。急性心筋梗塞ではなかったんだけど)せいもあって、よけいにショックが大きかった。

今の心境をもっとも正確に表現してる言葉は '喪失感'。'悲しい' とか '寂しい' とかよりも '失った' って感覚。あったモノ、あって当たり前だったモノが失くなって、どうやっても取り戻せずに茫然としてるような、そういう感覚。だって、マリノスに、ずっと、当たり前のようにいて、「マリノスに強い思い入れがあれば松田直樹にも強い思い入れを持たざるを得ない」存在だったんだから。まぁ、より正確に言えば、'失った' って実感もイマイチリアリティが感じられない感じなんだけど。

では、何故、 「マリノスに強い思い入れがあれば松田直樹にも強い思い入れを持たざるを得ない」存在だったのか。まぁ、簡単に言っちゃえば存在感ってことなんだけど、その '存在感' にはいくつかのレイヤーがある気がする。

まぁ、まず事実関係として、J リーグは今シーズンで設立から 19 シーズン目を迎えてるんだけど、昨シーズンまでの 18 シーズンの歴史の中で 16 シーズンの間、マリノスのトップ・チームで試合に出場し続けてきた選手だって点がある。当たり前だけど、コレはすごく大きなこと。しかも、在籍していただけでなく試合に出場し続けてたんだから。つまり、これまでの J リーグでのマリノスを振り返れば、初期の数年と今年を除いて必ずそこには松田直樹の姿があったってこと(もちろん、シーズンによって出場試合数にはバラつきはあったけど。ちなみに、J1 リーグ戦通算出場試合数は 385)。そんな選手はもちろん他にはいないし、マリノスのサポーターがそんな選手を無視したり軽視したりできるわけがない。

それはどういうことかっていうと、心情としては「苦楽を共にしてきてきた」って感じなのかな。3 回のリーグ優勝等への貢献はもちろん大きいんだけど、それよりも、在籍期間が長いってことは苦しい時期にもいたってことだし。もちろん、優勝を決める決勝ゴールを決めたとか、大事な試合でハットトリックを決めたとか、そういう派手な出来事は、それはそれで記憶に残るし大切なことなんだけど、そういうのとは別の次元で、圧倒的に存在感が大きくて、大切なモノなわけで。派手な出来事とかって、いい意味でオマケっていうか、ご褒美みたいなモノだったり、ある種のイベントみたいなモノで、上塗りっていうか装飾みたいなモノではあるんだけど、決して土台ではないって感じなのかな。逆に、長年いたってことは、その土台を、それこそ調子がいい時期も苦しい時期も支えてきたわけで。やっぱ、単純に同一視することなんかできないな、と。

ブッチャけたハナシ、松田直樹ってヤツは、単に「苦しい時期も陰ながら土台を支えてきた」的な選手じゃなかったりもするんだけど。派手な出来事の主役になることもあるし、自ら苦しい時期の原因にもなってたりしやがることもあったりしたんで。まぁ、そこが松田直樹の松田直樹たる由縁だったりもしるんだけど。

それでも、'横浜愛 / マリノス愛' みたいなモノをすごくストレートに表現する選手でもあったし、やっぱりサポーターとしては好きにならずにはいられないキャラクターだった。個人的にはけっこう好きなマリノスのチャントに、「バーモー F・マリノス バーモー F・マリノス 勇気と闘志 誇りを胸に オオ オッオオオオ オッオオオオ オー」って歌詞があるんだけど(最近、あまり歌われてないけど)、「勇気・闘志・誇り」って、なんか、今、あらためて考えるとすごく松田直樹にピッタリだったなぁ、なんて思ったりもして。

そこが、人間性っていうか、キャラクター的なレイヤーにもつながる。特に、いいときも悪いときも全力で、真っ直ぐに、気迫が観ている人間に強烈に伝わってくる感じが、多くの人を魅了した大きな要因だと思うし、紛うことなき松田直樹の魅力であることは間違いない。いわゆる、「バカな子ほどカワイイ」的な部分も含めて(やんちゃなエピソードはここにまとめられてる)。実際、ほとんどの報道も「破天荒で真っ直ぐな永遠のサッカー小僧」的な部分にスポットが当たってるし。

でも、個人的には、そういうキャラクター的な部分と同じくらい(いや、それ以上にかも?)、純粋にプレーヤーとしてのクオリティって部分にもっとも魅かれてた。単純に、メチャメチャレベルの高いディフェンダーだったし、観ててウットリするような ダイナミックなフットボーラーだったって意味で。

オレ、20 歳までに日本代表に入ります。今、日本の最高のディフェンダーは井原さんでしょ。マリノスで井原さんを抜けば日本代表のレギュラーッスよね。

これは荒川敬則氏が中日スポーツの記事の中で紹介してるルーキー・イヤーの松田直樹の発言なんだけど、こういう発言がやんちゃな部分の例として挙げられがちで、それはそれで松田直樹らしいエピソードなんだけど、同じくらい重要な事実は、実際にこの発言を実現させたってことだし、それは純粋に松田直樹ってプレーヤーのクオリティの高さの表れなわけで。『闘争人 ー 松田直樹物語』のレヴューにも書いた通り、速さ・強さ・高さを高次元で兼ね備えてて、なおかつライン・コントロールや相手との駆け引きにも秀でてて、足下の技術やフィードの精度も高くて、強いリーダーシップもある。一般的には、このうちのいくつかを持ってるだけで、十分優れたディフェンダーって評価されると思うけど、これだけ兼ね備えてる選手は他にいなかったし、真剣に「日本サッカー史上最高のディフェンダー」だと思ってるんで。

あと、忘れちゃいけないのが攻撃力。まず、大前提として、一般的にディフェンダーに求められる攻撃力を高いレベルで持ってた。例えば、地味だからそれほど大きく注目されないこともあったりしがちだけどロング・ボールのフィードは見事だった。キックの技術(=ボールの質・精度)はもちろんだけど、それ以前に、狙いを定めるセンスも兼ね備えてて。

もちろん、ディフェンダー離れしたダイナミックな攻撃参加も見事だった。ディフェンダーとは思えないような、ビックリしたりウットリしちゃうようなプレーを随所で見せてくれて。すごく印象に残ってるのは、去年の三ツ沢での試合で見せたループ・シュートかな。映像を見返したわけではないんで記憶でしかないんだけど(対戦相手すら覚えてないし。でも、三ツ沢での試合はアウェイ寄りで観てることが多くて、前半のプレーだったから近くで観てた)、ヴァイタル・エリア付近でボールをはたいて、ゴールに向かって右側のペナルティ・エリア内に侵入して、ワン・ツーで返ってきた浮き球を左足のアウトサイドでループ・シュートしたプレーなんだけど、ワン・ツーで戻ってきたボールは後方からの浮き球で、ボールをバウンドさせて右足でダイレクト・ボレーで合わせればちょうどいいタイミングだったんだけど、当然、相手のゴールキーパーもそのタイミングに合わせて構えようとしたら、そのゴールキーパーの体勢を見て、まるでその当たり前な対応を嘲笑うようにバウンドする直前のボールを左足のアウトサイドで擦り上げるように浮かせてループ・シュートでゴールを狙いやがって。シュートはクロスバーをちょっと超えちゃってシュートは入らなかったんだけど(ゴール・ネットにのったんで、けっこう惜しかった)、利き足ではない左足のアウトでループ・シュートなんて、とてもディフェンダーのプレーとは思えないし、そんなことを思いつくセンスも実行できちゃうスキルもハンパじゃないな、と。ブッチャけ、チームの他のフォワードやミッドフィルダーでもそんなことできるヤツがそれほどいたとは思えないし。あらためて松田直樹に惚れ直した瞬間だった(コレが昨シーズンってのがポイント)。

日本代表でも活躍した中澤佑二に加えて、下部組織からの生え抜きであり、日本代表にも選出されるようになった栗原勇蔵の成長もあって、近年はセンターバックではなくセントラル・ミッドフィルダーとしてプレーすることも増えてて、その分、それまで以上に攻撃力が目立ってた。個人的には、もちろんセンターバックでのプレーは好きだったけど、中澤佑二と栗原勇蔵を活かす意味でも、中盤での起用は大賛成だったし、実際、そのプレー自体もすごく好きだった。もちろん、いざとなれば(中澤佑二と栗原勇蔵が代表に呼ばれたり怪我した場合は)センターバックも問題なくできちゃうところも頼もしかったし。ただ、あのセンスと技術を見せつけられればただ守らせとくのはもったいないって思っちゃうのも当然だし、実際、過去にも何度か試してた。たしか早野さんが監督のときだったかな(他にもいた気がするけど思い出せない)。でも、当時は松田直樹自身にそういう意思がなかったのか(単に頑固だったのか、センターバックとしてのプライドか?)、上手くいかなかったんだけど。その点では、それを可能にしちゃった(上手くおだててやらせた?)桑原さんには実は個人的にはすごく感謝してたりする(多くのマリノス・サポーターにはあまり感謝されてなさそうな監督だけど)。松田直樹の選手としての可能性を拡げてくれたって意味で。

他にも、味の素スタジアムでの FC 東京戦と日産スタジアムでのヴェルディ戦で見せた、ゴールキーパーの頭上を抜く長距離のループ・シュートもよく覚えてる。両方とも相手のゴールキーパーが元日本代表の土肥洋一だったのは気の毒な限りだけど、ヴェルディ戦のときは相手に元マリノス(現ジュビロ)の那須大亮がいて、一瞬、フォワードの選手の動きに引っ張られたためにボールへの寄せが遅れて、それを嘲笑うようにシュートを打ったんだけど、この時も、松田直樹のスキルとか性格を知り尽くした那須大亮の「ヤベェ! マツさんじゃん!」って声が聞こえてきた気がしたくらい、 痛快且つ見事なシュートだった。もちろん、実際に那須大亮の声が聞こえたわけじゃない、っつうか、そもそもそんなことを言ってたわけでもないけど、そう思っちゃうくらい慌てて寄せようとしてたし、それをわかった上で寄せられる前に、ホントに嘲笑うようにシュートして決めやがって。

まぁ、あと、もちろん、松田直樹といえば最終ラインからの迫力満点のオーヴァーラップ。なんか、日本にはやたらと戦術とか決まり事が大好きで、バランスを崩すことをヤケに嫌うサッカー・ファンが多いみたいで、そういうヤツらには必ずしも評判は良くなかったみたいだけど、そんなもんはクソ喰らえなわけで。あのダイナミズムこそ松田直樹の魅力そのものだし、それを否定することは松田直樹って選手を否定するだけでなく、大袈裟な言い方をすれば、サッカーっていう競技に対する冒涜だとすら思うし。個人的には、松田直樹のオーヴァーラップは横浜名物、それこそ、崎陽軒のシウマイとかマリンタワーとか中華街とかと同じレベルで横浜名物だったと思ってるんで。

正直、何シーズンぶりかの首位争いをしてる今シーズンのマリノスを観てて物足りないのがこのダイナミズムだったりしてるくらい。まぁ、こればっかりは、他の選手がすぐに真似できたりする類いのものじゃないんで(J リーグを見渡してもそんな能力を持った選手は見当たらないし)、チームを去った時点でどうにもできない問題なんだけど。まぁ、とにかく、純粋に 1 人のサッカー選手としてメチャメチャクオリティが高かったし、理屈抜きで観ててワクワクする選手、金を払って観るに値する選手で、脳ミソにもハートにもガンガン容赦なく訴えてくる希有な存在だった。 

*   *   *

ついでってわけじゃないけど、マリノスを去った件についての個人的な考えも書いとこうかな。せっかくなんで。

経緯としては(ちょっと検索すれば簡単に調べられると思うけど)、昨シーズン終了直前のホーム最終戦前に、J リーグの規定に従って、翌シーズンの契約を結ぶ意思がないことをマリノスのフロントが松田直樹に伝えたことが報じられて、それを知ったサポーターがクラブハウスに詰めかけたり、撤回を求める署名活動が行われたり(最終的には、他チームのサポーター等も含めて約 20000 人分集まり、今回、遺族に渡されたらしい)、ホーム最終戦後のセレモニーでの社長と監督の挨拶中もサポーターは松田直樹のチャントを歌い続けたり、セレモニー後もサポーターが夜までフロントに説明を求めてスタンドに残ったり、マリノス側とサポーターの話し合いの場としてサポーターズ・カンファレンスが開かれたりしたけど、決定は撤回されずに松田直樹はマリノスを退団して J リーグ入りを目指してる JFL の松本山雅 FC に移籍したって感じになるのかな。

そのときの率直な印象は「フロントは一番踏んじゃいけない地雷を踏んじゃった」だった。もちろん、プロ・サッカー・クラブは営利企業であり、短期〜中期〜長期の経営的観点を考慮しつつ人事を考えて経営をしていかなきゃいけないし、サポーターは経営陣でも株主でもないわけで、'正解 / 間違い' とか '正しい / 正しくない' なんて言う権利もないんだけど、ただ、率直に 'アリかナシか' って訊かれれば 'ナシ' だっただろ、と。それは、今回、このようなカタチで訃報が届いちゃったからってことじゃないし、あのフロントの決定と今回の不慮の事故との因果関係なんて限りなくゼロに近いパーセンテージだと思うけど、去年の年末の時点で 'ナシ' だと思ってたし、今でももちろん、その考えは変わってない。たぶん、仮に今回のようなことが起こらずに、松田直樹が現役選手として何年かプレーを続け(松本山雅 FC を J2 に昇格させ?)た後に引退して、何年後かにコーチや監督とか、別のカタチでマリノスに戻ってきたとしても、基本的に 2010 年シーズンの終わりに下された決断についての考えは変わらなかったと思うし。時間が解決してくれる類いの問題じゃないんで。踏んで爆発した地雷はどう取り繕っても元通りにはならないから。

ちなみに、この「一番踏んじゃいけない地雷を踏んじゃった」って印象には、'怒り' とか '憤り' みたいなエモーショナルな感情だけじゃなく、「バカだなぁ」みたいな、ちょっと呆れたような心情も含まれてる。むしろ、'怒り' とか '憤り' よりも「バカだなぁ」のほうが大きかったかも。それほどエモーショナルで直情的な人間ではないんで。

そう思っちゃった理由は、突き詰めると「松田直樹はマリノス(・サポーター)にとってスペシャルな存在だから」としか言いようがないんだけど。ただ、フロントがその感覚を共有できてない(=サポーターとの間に感覚のギャップがある)んだったらそれはそれで大きな問題だし、わかってて敢えてやったのかもしれないけど、それはそれで、その影響を考えると、それこそ経営者の立場で考えて、対費用効果としてどうなのよ? って思っちゃったんで。ここでできた溝を埋めるのにどれだけのコストがかかるか考えてるのか? って。金銭的にも、人的リソースの面でも、実働的な部分でも。まぁ、もちろん、簡単に換算できるものじゃないから、あくまでも感覚的な部分なんだけど。

この件に関する個人的にな関わり方としては、報道当日にクラブハウスには行かなかったけど、撤回を求める署名活動には協力もしたし署名もした。ホーム最終戦後のセレモニーでは社長と監督の挨拶中もチャントを歌い続けてた。セレモニー後はスタンドには残らなかったけど、後日行われたサポーターズ・カンファレンスには出席したって感じかな。

それぞれの理由としては、報道当日に関しては報道自体を知ったのが時間的に遅かったから物理的に行けなかった(既に現場はひとまず収まってた)から。署名活動はアリだと思ったから協力した。署名を集めれば決定が撤回されるかどうかはともかく、意思を示す必要はあるだろ、と。まぁ、考えがあって署名しなかった人もたくさん知ってるし、サポーターなんて、組織であって組織じゃないっていうか、別にヒエラルキーとか命令系統のある組織ではなく、あくまでもそれぞれ意思を持った個人の集まりなんで、別に「署名した / しなかった」は個々人の意思として尊重されるべきものだけど。ホーム最終戦後のセレモニーでは社長と監督の挨拶中もチャントを歌い続けてた件については、個人的には、社長や監督がムカつくからかき消してやりたいみたいな気持ちではなくて、ただ、目の前のピッチに松田直樹がいて、トリコロールのユニフォームを着てる最後の時に、純粋に歌わずにはいられなかったってだけで。もちろん、人が挨拶してるのにけしからんみたいな意見もあったし、逆に社長や監督の挨拶なんて聞きたくないって意識だったヤツもいたかもしれないけど、個人的にはけっこう単純に、トリコロールのユニフォームを着た松田直樹の最後の場面で、とてもじゃないけど他のことなんてできなかったってだけで。そんなに悪気みたいなモノはなかったつもり。その後、スタジアムには残らなかったんだけど、単純に夜に別の用事が入ってたからで、予定がなければ残ってたと思う。

サポーターズ・カンファレンスに関しては、ちょっと複雑な感じだったかな。基本的に、あういうカタチで話し合いの場が設けられることは有意義だと思うけど、実際の内容に関しては、いい意味でも悪い意味でも、期待を裏切るないようではなかったというか。

段取り的には、社長やチーム統括本部長を含むフロントの各責任者がまずそれぞれの立場での役割や方針を説明した上で、サポーターの質問や意見に答えるカタチだったんだけど、フロントの対応は基本的にはすごく真摯だったとは思う。そういう意味では、悪い意味で期待を裏切られた感じはなかった。実際、あの 1 〜 2 週間はフロントも大変だったとは思うし、いくら責任者とはいえ、政治家でも芸能人でもないのにあういうカタチで矢面に立たされて、100 〜 1000 人単位の人間と対峙させられるのはメチャメチャシンドイと思うし。

ただ、同時に、予想された範疇だったっていうか、いい意味で期待を裏切るようなサプライズでもないって印象だったのも事実。真摯な対応ではあったけど、全然、 'ちゃぶられ' なかったというか。

実は、個人的には、サポーターズ・カンファレンスの直前は、ちょっとフロントが可哀想になっちゃってた感もあったりしつつ(もちろん、「バカだなぁ」って呆れた気分も含んでるけど)、同時に、ここでできた溝を埋めるには何が要るんだ? いい感じの落としどころはどの辺なんだ? 的な部分もあって。 だって、幸か不幸かフロントは変わらないわけだし、サッカーもマリノスも続くわけだし、離れるわけにもいかないわけだし。どうやったら、この騒ぎを鎮めつつ、お互いのメンツも保ちつつ、ポジティヴな感じになるんだろ? って。

それこそ、会場に向かう東横線の中では、「スティーヴ・ジョブズだったらこういう場に絶対に丸腰で出てきたりしないよな…。ジョブズだったら絶対にお土産(っつううか、爆弾)を持ってきて、その場(サポーターの気持ち)を全部持ってっちゃうだろ。ピンチを一気にチャンスにしちゃうような。ジョブズだったらどんな手を考えてくる?」みたいなことを、どっちかっつうとフロント側の立場で考えてたくらいで(関係ないけど、サッカーを観るときも対戦相手の立場になって観てることが結構多かったりする)。まぁ、もちろん、スティーヴ・ジョブズとの比較ってのは突飛だけど、でも、どちらも経営者なわけで、経営者としての器っていうか、アイデアみたいなモノを見定めたいみたいな気持ちもちょっとあって。結果としては、残念ながらジョブズ並みの爆弾は用意されてなかったんだけど。

一応、現場に向かう間に考えついた '爆弾' は、サポーターズ・カンファレンスの冒頭でいきなり「松田直樹に関しては白紙に戻す」って発表することだったんだけど。そうしたら、もう、その時点で完全に出端を挫かれるっていうか、その場を全部持っていけた、それこそ、まんまと 'ちゃぶれた' 気がする。

もちろん、一度下した決定を覆すってのは、ある意味で無責任だし、虫がいいハナシだとも思えるけど、でも、報道当日から署名活動〜ホーム最終戦後のセレモニーっていう一連の騒動はそのエスキューズにできたはずだし(実際、社長は体調を崩したりしてたらしいし)。もちろん、松田直樹自身がヘソを曲げて意固地になる可能性もあったけど、そうなってたらそうなったで仕方がないことだけど、少なくとも一度は決定を覆して歩み寄ったって姿勢を見せたことにはなったはずし。それこそ、「サポーターズ・カンファレンスが終わったらすぐに松田直樹に連絡するから、絶対に口外したりツイートしたりするな」ってその場のサポーターに釘を刺して、共犯関係に巻き込んじゃうくらいのイヤらしさがあってもいいって思ったくらいなんで。

さらに、そこでもうひとつ、「15 シーズン以上トップ・チームで公式戦に出続けた選手は特別に扱うことにする」みたいなことを言っちゃえば、もう、バッチリだと思ってたんだけど。例えば、クラブ側から決して契約非更新は提示しない(ただし、もちろん減棒とか選手の意思での移籍や引退はアリ)とか。それこそ、'松田直樹ルール' とか名付けちゃって。そうすれば、松田直樹だけ依怙贔屓するエクスキューズにもなるし。っつうか、実際、「15 シーズン以上トップ・チームで公式戦に出続けた選手」って、それほど出ないと思うし、依怙贔屓してもいいと思うし。

去年の年末には、松田直樹以外にも、山瀬功治・坂田大輔・河合竜二・清水範久・斎藤陽介・梅井大輝・浦田延尚の計 8 選手が契約非更新となったんだけど、 あまりトップでの試合出場がなかった斎藤陽介・梅井大輝・浦田延尚はともかく、山瀬功治・坂田大輔・河合竜二・清水範久の 4 選手はもちろん、近年のマリノスを支えてきた選手だったんで、「松田を依怙贔屓できない」って人がいたことは理解できた。でも、実は個人的にはこの 4 人に関しては仕方がないかな、と思ってた。もちろん、好みで言えばみんな好きな選手なんだけど、でも、ちょっと客観的に引いて見れば、坂田大輔・河合竜二・清水範久はポジション争いの中で明らかに出場機会を減らしてたし、年齢的にも将来性に期待って歳でもないし。山瀬功治に関しては、たぶん、昨シーズン、木村和司監督がもっとも期待して、その持ち味が出せるように使ってた選手だと思うけど、正直なところ、マリノスの 10 番を背負ってチームを引っ張るべき年齢の選手としてその期待に応えられてたかっていうと疑問だったんで。まぁ、非更新ってのはちょっと極端かな、とは思ったけど。

あと、別にフロントを弁護するつもりは全然ないけど、松田直樹と山瀬功治への非更新の通達に関してはそれほど問題があったとは思えない(経緯についてはオフィシャル・リリースで触れられてる)。リーグ戦を残したタイミングで通達せざるを得ない現在の J リーグの規定自体にはメチャメチャ疑問があるけど。特に、けっこうサポーターの間で騒ぎになってた山瀬功治の件に関しては、言ってみればある種のトバッチリだったと思うし。代理人がいるのに代理人をスルーして選手に直接連絡するなんて常識としてあり得ないし、3 者の話し合いの場を設ける場合にも代理人に連絡してセッティングするのが当然。まぁ、実際に交わされた言葉遣いのレベルまではわからないからそこに問題があった可能性は否定できないけど、段取り自体に問題があったとは思えないし、おそらくは単なるミス・コミュニケーションだったんじゃないかな、と思える。だとしたら、まずは当事者間で直接問題を解決するべきで、その前にブログに書いたのは大人げなかったと思うし。山瀬功治に悪意や悪気があったとは思わない(思えない)けど、ちょっと軽卒だったろ、と。当事者間で問題を解決しようと努力したけど、ラチがあかなくて仕方なくブログに書いたなら理解できるけど、そうじゃなかったわけで。宇多田ヒカルのベスト盤騒動もちょっと似てたけど、選手とかアーティストが言い出したらファンは同情して、相手であるレーベルなりフロントを簡単(安易)に悪役にすることは容易に想像できることだし。この件は、フロントがちょっと可哀想だったな、と。

一般論として、契約更新に際して選手を評価するとき、在籍期間全体の功績って面と直近シーズンでの活躍って面を分けて考えつつ、そこに年齢・経験値・体力・年棒等の諸条件を加味して評価する必要があると思うけど、昨シーズン終了時の松田直樹に関しては、どちらの面でも申し分なかったし、仮に特別扱いしても、決して '依怙贔屓' って感じにはならなかったと思う。

まぁ、個人的には '依怙贔屓' 自体も嫌いじゃないんだけど。'依怙贔屓' って言うと誤解されそうだけど、ロジカルな思考ではなく、感覚的な判断とか直感も時には必要だと思うし。それこそ、嘉悦社長が和司さんを監督にした理由なんて「ミスター日産だから」みたいな、まさに「依怙贔屓じゃん!」って理由だったわけだし。個人的には、その '依怙贔屓' は嫌いじゃなかったんで、だからこそ、松田直樹の件に関してはつまんない理屈を並べてたことが解せなかったんだけど。

ついでに言うと、この件に関して和司さんには特別な想いは感じてない。理由は、和司さんが子供の頃の憧れの選手だったからではなく、単純に、監督はあくまでも現場監督であって、チーム編成については提言はできても最終的な裁量権はないと思うので(イングランドには監督が GM 的な役割を兼ねてるようなクラブもあるけど、マリノスはそうではないと思うので)。そういう意味で、あくまでも責任者は嘉悦社長とチーム統括本部長の下條佳明さんだ、と。

嘉悦社長についても下條さんについても、別に人格否定をしたいわけじゃない。特に下条さん自身も日産〜マリノスを支えてきた功労者だと思うし。だからこそ、よけいにガッカリしたんだけど。また、嘉悦社長についても、基本的には有能な人、それこそ、日産の中でもかなりの切れ者だと言われてるらしいし、かといって、単に冷徹な経営者ではなく、サッカー / マリノスへの熱意も感じるし。ただ、去年の決断についてはやっぱり「ナシ」だったと思うし、その結果として追い込まれたピンチに起死回生の一撃でサポーターを 'ちゃぶって'、サポーターの気持ちを鷲掴みにするようなダイナミズムはないらしいな、と。だから、そういう相手だって考えていかざるを得ないってだけで。なんか、社長は今シーズンの成績に本人は首を賭けちゃったわけだけど、そんなことしてくれる必要なんかなかったと思うし、まぁ、あくまでも「たぶん友達にはなれねぇだろうな」みたいなレベルなだけで。

ハナシを戻すと、依怙贔屓を嫌がる平等主義みたいなモノも、もちろん、わからんではない。それが大原則だし。だからこそ、「15 シーズン以上トップ・チームで公式戦に出続けた選手」くらいな条件ってちょうどいいな、と思ってて。実は、個人的には、依怙贔屓云々について考えたときに頭に浮かんだのは山瀬功治・坂田大輔・河合竜二・清水範久・斎藤陽介・梅井大輝・浦田延尚の計 8 選手ではなくて、井原正巳さんと(オニクさんこと)永山邦夫さんと上野良治だったんだけど、この 3 人の経歴等を鑑みても、12 〜 15 年くらいがいい線なのかな、と。まぁ、他の選手も含めて全選手のキャリアをキチンとチェックしたわけじゃないし、もちろん、それぞれの選手のケースで個別に考えるべき部分はあったりするんだけど(特に上野良治のときに何も動き等を起こせなかったことは自省の念があったりするし)。でも、「15 シーズン以上トップ・チームで公式戦に出続けた選手」ではないとしても、なんか、こういうのをひとつ、クラブとして定めておくことは悪いことじゃないし、去年の年末こそ、それに相応しいタイミングだったんじゃないかな、と。松田直樹って、それくらいの選手だったと思うんで。

まぁ、今となっては後の祭りだし、そういうことを決定できる立場にあるわけでもないんで、去年の年末のタイミングでの一連の動きについて「たら」「れば」を言っても意味はないんだけど。ただ、最後の部分の「今後、クラブに対して一定以上の功績を残してきた選手の処遇について」は一考の必要があると思うし、クラブや選手、OB、サポーター等、いろいろな立場の人間が活発に意見交換していったほうがいいと思う。もちろん、サポーターの 1 人としてはできる範囲でコミットしたいと思うし。

もうひとつ、12 日に発表された背番号 3 を永久欠番にすることについてだけど、個人的には「どっちでもいいかな」って印象だったかな。正直なところ。サポーターの間では反対意見が多いっぽい感じに見えるけど、永久欠番にする意味も理解できるし、今後、何が起こるかわからない(例えば、全然、そういうことを考慮しない社長になったりとか、スポンサーの企業とか株式比率が大幅に変わったりとか。決してないとは言い切れないと思うんで)ことを考えると決められた手続きを踏んでおいたほうがいいって考え方もできると思うし。ちゃんとした手続きを踏まずにずっと空けとくこともできないみたいだし、報道を見る限り、言い出しっぺは中村俊輔だったっぽいけど、一緒にプレーしてた選手の意見を尊重してもいいのかなって思ったりもして。ただ、逆に「松田直樹の魂を引き継ぐ選手に背負って欲しい」的な気持ちも、もちろん、理解はできる。ただ、それを過剰に期待したり押し付けたりするのもちょっと違う気もするけど。まぁ、そんなことより、もっと大事っつうか、最大の疑問っていうか、違和感があったのは、「死後数日の間に決めるような(早急に決めなければいけない)ことなのか?」ってこと。とりあえず、今シーズンは 3 番は空いてるわけだし、もっと時間をかけていろんな人から意見を聞いて決めてもよかったんじゃね? って。

ちなみに、個人的には群馬で行われた通夜・告別式には行かなかったし、マリノスタウンに献花もしなかった。特に深い意味があったわけじゃないんだけど、葬儀に限らず、セレモニー的なモノはなんとなく苦手なので。

*   *   *

カヌやロナウドといったワールド・クラスの化け物と会敵する度にモチベーションを上げちゃうところとかもフットボーラーとしてすごく正しいし、時にはビックリするようなスーパー・プレーも見せてくれるし。30 歳を過ぎて、人間的にもプレーヤーとしても円熟する部分はありつつも、変わらない部分、譲れない部分は頑として譲らない。そういう不器用さも魅力的だし、 とかく小粒な優等生タイプが増えてる(もてはやされてる)気がする昨今(サッカーの世界だけではなく、社会全般の傾向として)なだけに、余計に魅力的に感じられる。やっぱり、松田直樹は脳ミソにもハートにもガンガン容赦なく訴えてくる希有な存在で、だからこそこれからも目が離せないし、見れば見るほど好きになる。いろいろ回り道しちゃった部分もあるけど、だからこそすごく魅力的なプレーヤーになったんだと思うし、こういう選手がこれからどういうキャリアを重ねていくのかにもすごく興味があるし。

『闘争人 ー 松田直樹物語』のレヴューでこんな風に書いてる通り、純粋に選手としてまだまだ期待してたんで去年の年末の喪失感はすごく大きかったし、残念ながらマリノスを離れちゃったけど、将来的に指導者としてマリノスに戻ってくることももちろん期待してたんで、個人的にはもちろんただただ残念なんだけど、同時に、マリノスにとっても日本のサッカー界にとっても大きな喪失以外の何物でもない。当たり前のことだけど、失ったモノの大きさは失うまでわからないもんで、やっぱり何とも言えない気分っていうか、ただただ茫然としちゃう感じはまだまだなくなってない。

同時に、我ながらなんでこんなにも茫然としてるんだろう? ってことがずっと引っかかってる。7 月末にハラカミレイさんの訃報もあって、前に "River: NIKE+ Original Run" のレヴューでも書いた通りハラカミさんの音楽はメチャメチャ好きなんで、もちろん超ショックでだったし悲しかったんだけど、松田直樹の訃報とはけっこう印象が違ってて。まぁ、ハラカミさんは自分より年上のミュージシャンなのに対して、松田直樹は年下のアスリートだって違いはあるけど、単純にそういう違いではない気がしてて。

そこがずっとモヤモヤしてて、もちろん、結論なんかでてないんだけど、唯一、共通項として思い浮かんだのは 'アーティスト' ってイメージだったりする。まぁ、アーティストは短命だってのも乱暴なイメージでしかないけど、なんか、アーティスティックな生き様だったなって考えると、ちょっとは腑に落ちたような感じもあったりして。もちろん、アーティストだからって短命だってわけじゃないし、それこそ、ハラカミさんは別に生き急いじゃう系のアーティストじゃなかったんだけど。生き急いじゃう系のイメージって意味では、むしろ松田直樹のほうが似合うような気すらしてくるし。まぁ、そういう意味では、日本サッカー界でも最もアーティスティックな生き方をした選手だったって言えるのかもしれない。ディフェンダーなのにアーティスティックってギャップも松田直樹らしいって思えるし。




松田 直樹 (Naoki MATSUDA / Mar 14, 1977 - Aug 4, 2011) - Rest in peace.


* ちなみに、上に貼った写真は、『闘争人 ー 松田直樹物語』のレヴューでもちょっと触れたけど、hamatra が発行してるフリー・ペーパー、"hamatra paper" に松田直樹のインタヴュー記事用に撮ったモノ(掲載号は Vol. 47 で、この写真は表紙で使った)。ホントはこんなところに勝手に使ったら怒られちゃうかもだけど(まぁ、怒られたら変えるってことで。一応、サイズは縮小してあるし)、この '横浜最高' T シャツの写真が使いたくて。
 

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