2008/01/29

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美しき日本の残像

. :アレックス・カー 著(朝日新聞社) ★☆

'残像' って言葉が妙に引っかかるアレックス・カーの『美しき日本の残像』。日本人以上に日本文化に造詣が深い著者が、在りし日の日本の文化の美しさと、それが失われてしまった現状について、自身の経験や学識を交えながら、柔らかい文章で辛辣に綴った 1 冊でした。

'93 年の著作なので、もう 10 年以上前に書かれたことになるけど、語られていることは変わってない(その傾向に拍車がかかってすらいる)。先見の明があったのか、そもそも問題がまるで改善されていないのか。おそらくその両方。口調こそ柔らかいけど、なかなか耳が痛い(けど勉強になる)話が多い。

巻頭に坂東玉三郎、巻末に司馬遼太郎という、ものすごいメンツが文章を寄せてるんだけど、巻頭の坂東玉三郎の文章の中で使われている 'コニヨシェンティ' って言葉がちょっと気になる。もともとイタリア語に由来する言葉で、「物知りではあるけど何もつくらない人」のことらしい。ここではもちろん、そうならないように、って意味で使われてるんだけど、これはとても気をつけたいところだな、と。

このアレックスって人は、若い頃に徳島の山奥の茅葺きの民家を再生させて今でも活動の拠点にしてたり、最近では京都の町家再生を手掛けてたりと、決して 'コニヨシェンティ' ではない。

実は、『ガンダム A』に連載されてる富野由悠季監督の連載対談「教えてください。富野です」に登場したのを読んで興味を持ったんだけど、富野監督はこういう歯に衣着せない言い方をする実践派がすごく好きらしい。

実際には、経歴を読む限り、こういう視点を持って、こういう活動をしてこれたのは、本人の資質だけではなく、育った環境がかなり恵まれてた(経済的も、社会的にも)って側面もあるとは思うし、外国人だからこそ見えてくる部分も多い気がするし、素直にすべてを受け入れられるわけじゃない。同じようにアメリカの悪いところを挙げてけばキリがないくらい挙げられるし。一般論としてはね。当事者じゃないからこそわかることもあるし(例えば、ジャズとかボサ・ノヴァとか、当事者であるアメリカ人やブラジル人より、ある意味ではイギリス人や日本人のほうがいい理解の仕方をしている、って側面があったり)。もちろん、当事者にしかわからないこともあるけど。こういう、日本に本来あった(でも今は失われた)いい部分を外国人に教えられるとちょっと自己嫌悪に陥ったりもするけど、それはそれとして、フラットに受け入れる感覚が大事だな、と。そういう意味では、とても質の高い資料ではあるし、読み物としてもなかなか面白い。

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